紺色の海、緋色の空
ホテルを出た僕たちは、グロースターロード駅から地下鉄に乗り、ピカデリーサーカスへと向かった。

地下鉄は薄暗く、真夏だというのに肌寒さを感じた。

煤けたコンコースのあちこちには、張り紙や落書き、それに何かのポスターが所狭しと貼られていた。

ポスターの中で微笑む女性の目と鼻には画鋲が押してあった。こういう悪戯は国境を越えても変わらないものらしい。

ピカデリーサーカス駅の階段を上がると、少し灰色がかったロンドンの空と重厚な建造物が姿を現した。

すぐ目の前には有名なエロスの像が建っていて、待ち合わせをしている多くの若者たちであふれていた。

そもそも"サーカス"とは、円形を意味する言葉で、現に幾つものストリートがここを起点に円状に交差し、また別の新たな街道へと続いていた。

「エロスってどういう意味だろう」

「さあ。少なくともあなたが思っているような意味じゃないと思うわ」

などと言いながら、僕とシロナは思ったほど大きくはないエロスの像をぐるりと眺め、ようやくお目当てのリージェントストリートへと足を伸ばした。

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