紺色の海、緋色の空
『青山早紀』

もう何度その名前をノートに書きつけたか分からない。

無機質なチャイムが長く陰鬱な授業の終わりを告げると、早紀の周りには自然と友達の輪ができた。

いつだって早紀は輪の中心にいた。

僕はそれを遠く輪の外から見ていた。

そんな僕たちの立ち位置は、僕たちが初めて出会った時から変わらなかった。

ずっとそれでいいと思っていた。このまま何も変わらずに、二人で大人になれればいいと願っていた。

だけど、「あの事件」をきっかけに、僕たちの関係は変わってしまった。

以来、木漏れ日の渡り廊下で話す早紀の声を聞くたびに、眩しい笑顔に触れるたびに、僕の心は激しく乱れ、掻きむしられた。

早紀は決まって昼休みになると友達の輪を抜け出し、栗色の髪をなびかせて階下に消えるようになった。

「先生とお弁当かあ」

「いいなあ」

「でも早紀なら納得よね」

誰が言うでもなく、皆口々に早紀のことを羨ましがった。

だけど、現実はまるで違っていた。

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