only one


みすぼらしい格好のまま乗り込んだ高級車。


運転手と助手席には黒いスーツを身に纏い眼鏡をかけた男の人が座っていた。


男は振り向かずに言ったんだ。


「移動に少しお時間がかかります。お休みになって下さい。」



言われなくても眠くて瞼は重くなっていた。


深夜2時。


私を迎えに来る時間を聞いて起きて待っていた。

夜中の迎えを不思議には思わなかった。


魁夢は私の存在を消すかのように誰の目にも触れることのない生活を強いていた。


私の存在を消すために決めた結婚。


迎えの車に乗り込む一瞬でさえも人の目に私が映らないようにしたかったんだよね?


それは魁夢が家の全てを継ぐために私の存在を世間から忘れさせる必要があったんだよね?


私、知ってしまったんだよ。


仲村さんを急に辞めさせた理由を…


迎えが来るまで最後の日だからと油断した魁夢。

温室に行きたいと言う私の言葉を聞いてくれた魁夢。


私は温室で仲村さんに逢ったんだ。


そして知ってしまった。

この家の秘密を…





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