only one
着替えが終わり中村さんの腕の中で揺られながら連れられた長い廊下
廊下ですれ違う人はみんな仲村さんと私を一瞬目を見開き驚いたように見てから深く頭を下げていた。
「仲村さん、皆さんとても驚かれているようですが...」
抱き上げられているのが原因なのだろうかと居心地の悪さに思わず仲村さんに話しかけた。
そんな私に仲村さんは優しい笑みを浮かべながら答えてくれた。
「お嬢様に生き写しの遥夢様を見てみんな驚いているのですよ。お嬢様はこの家の誰からも愛されていましたから。」
遥夢様が気にすることじゃありませんよ。
最後に私の不安をかき消すように笑って話してくれた仲村さん。
私はそれ以上何も言えなくなって仲村さんの腕の中で小さくなった。
「お嬢様、着きました。この扉の奥に旦那様がいらっしゃいます。」
立ち止まった仲村さんの前には重厚な扉。
濃い茶色の扉に金の取っ手がキラキラと光っていた。
いよいよ私をこの家に連れてきたご主人様との対面に私の体は小刻みに震えていたんだ。
コンコンコン
規則正しく打たれた扉をノックする音。
「仲村です。お嬢様をお連れしました。」
扉に向けて仲村さんは声を出した。
優しくも低く良く通る仲村さんの声。
その一瞬に私の体はまるで銅像のように固まってしまったんだ。