only one
春香の死によって屋敷の中も死んでしまった。
旦那様は春香を失う原因となった抗争に終止符を打ち隠居生活を決めた。
彰人も抵抗はしたものの最後は旦那様に従った。
長い戦いは終わった。
そして屋敷も光を失ったんだ。
温室の世話係として雇われている俺は春香が落ち着けるように花をたくさん育てていた。
春香が好んで書いていた蘭の花をたくさん増やした。
着物のデザインにたくさん描かれた蘭。
残された蘭の花達もどことなく寂しげで、元気がないように見えた。
「ここにふわふわとした足取りで迷い猫のように入ってきた春香はもういないんだな。」
蘭の花の前で呟く俺に背後から声が掛けられた。
「猫を引き取るつもりだ。」
彰人の声。
全く気配を感じなかったことに俺は少し驚いた。
「気配を消して近づくんじゃねぇよ!」