only one


「なに芝居がかったこと言ってんだよ。
大根役者か、てめぇは…。」


俺は茶化すように彰人に声を掛けた。


彰人の傷は深い。
だが前を向いて歩いている彰人に掛ける言葉が見つからなかったんだ。


「フッ…
演じることが板についてきた。」


冗談っぽい彰人の言葉に俺も一緒に笑った。


執事として完璧に演じてきた彰人。

その徹底ぶりは見事だった。


短期間で身につけた振る舞いや言葉使い、並みの努力でないことは俺にも理解できる。


全ては春香の為だった。

「けど、似合ってねぇぞ。」


「そんな風に俺に悪態をつけるのは、もうお前だけしかいない。」


「貴重な存在だ。
大事にしろよ。」


「ふんっ、言ってろ。」

「ところで猫を飼うってどういうことだ?」


軽い会話を続けていたが彰人の言葉を俺はずっと気にしていた。


猫とはもしかして遥夢のことなのか?


遥夢に何かあったのか?






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