only one
竜一に指示されたまま、大人しく彰人の部屋に向かう。
俺を待っていたのは秋山。
竜一の右腕と言われる男だった。
「よぅ!完璧だろ?
俺の計算通りだ。」
俺を試したいのか、挑発するように秋山は言った。
「遅ぇんだよ。」
「なに?」
「お前らならもっと早く行動に移せていたはずだ。
最も、もう少し時間を掛けていたら俺が先に今の状態を作ってたわけだが、出遅れたのは俺の方だったようだな。」
「お前も狙っていたのか?」
ギロリと俺を睨みつける秋山。
「俺は権力のトップなんて興味はない。
彰人の澄ました顔が歪むところが見たかった。
それと自由になる金。
それだけだ。」
俺の言葉に秋山は豪快に笑い出した。
「仲村はケチだったのか?」
「あぁ。」
「お前みたいな奴を信用していた仲村に同情するぜ。」
「俺は金が全てだ。」
「俺達気が合いそうだな。」
単純な秋山を騙すのは簡単だった。
自信過剰な馬鹿な男。
秋山の信頼を得ることで俺は竜一のそばに仕えることが出来た。
だが、遥夢のいる温室に近付くことは許されるまでに時間がかかった。
モニター室の記録用に保存されていたロム。
それを持ち出し、見ている秋山。
俺は何のための保存映像なのかを逐一聞かれていた。
その都度
「面倒臭ぇ」と呟きながらも丁寧に応えてやった。
勿論全て口から出任せで…。
「仲村は細かい奴だな。」
俺の嘘を信用する馬鹿な秋山は彰人の緻密さを細かいとウンザリした様子で話す。
細かいと感じる秋山自身が大雑把で足元をいつ掬われてもおかしくないという事に気付いていない馬鹿だとは理解していないことに俺はほくそ笑んだ。
竜一も秋山も俺や彰人の敵ではない。
そう思う反面、旦那様を救えなかった自分達の甘さに後悔が募る。
計算や計画というものを持たない竜一達の衝動的ともいえる行動的を甘く見てしまっていたんだ。