only one
俯き、考え込む俺。
逃げるという言葉に胸がズキズキと痛んだ。
ずっと争いを避けてきた。
異世界に行ったのも後継者から逃げるため。
ここに帰るつもりなんてなかったんだ。
弟がこの国を背負って立つ後継者に相応しいと俺も心から思っていたんだ。
「だらしねぇでございますわね。」
「あ゛?」
つぅか、お前の話し方がだらしねぇんじゃねぇの?
「シッカリしやがれでございますわ。」
俺の頭をガシッと掴んでグラグラと揺さぶられた。
クヨクヨと逃げる道を探し、悩んでも意味がないと言いたいのだろう。
「もう逃げれねぇでございますのよ。
これまで幾度となく人を裏切ってきたけど、同じように遥夢さんも裏切るつもりじゃねぇだろうなですか?」
「なんだよ、その話し方。」
「話を逸らすんじゃねぇですわ!」
まるで小さい頃に戻ったみたいだな。
俺とディアスにずっとくっついてたデリー。
言葉遣いも服装も全部俺達を真似てたっけな。
大きくなるにつれ、そんなデリーを心配して、作法やしきたりを詰め込まれてたな。
言葉使いが気持ち悪いくらい丁寧になったのも俺達と離され、作法を学んでからだっけな。