only one
「覚えてらっしゃらないなら結構。」
曖昧な俺の返答に不愉快そうに眉を寄せるデュラン。
「お父様、それでは私は家で待っています。」
車の中からデリーの声がして、俺が振り返ると同時に車は発進した。
呆気に取られる俺をクスクスと笑いながらデュランは話しかける。
「ここは決められた者以外の入館は許されていないのです。」
参りましょう。
掌を門にかざし、中に入ろうと足を進めるデュラン。
デュランの掌の力で門は自動で開き、俺もデュランの後に続いた。
建物の中に入るとエントランスがあり、でも人は誰も見当たらない。
そのまま無機質な廊下を進むと俺の目に入ったのは温室。
それは、俺が住んだ旦那様の屋敷の温室にそっくりだった。
吸い寄せられるように温室に足を進め、中に入ると
「蘭だ。」
所狭しと蘭の鉢植えが置いてあった。
「はい。蘭の花です。
あなた様が愛する蘭の花。」
優しい眼差しのデュランが言った。
「なぜ俺が蘭を大切にしていると知っている。」
「あなたが見せてくれました。
異世界でのあなたの生活を…。」
「それだけで、再現したのか?ご苦労なこった。」
「伝説の騎士の力が暴走すると誰にも止めることは出来ません。
ですから、あなたが大切に思う何かを私達は用意する必要があったのです。
あなたのそばに遥夢様が並ばれる日まで、その遥夢様を感じることが出来る癒やしの空間。
それが必要だから用意したのです。」
伏し目がちに応えるデュラン。
暴走だ?!