only one
「おかえり、マツ。」
遥夢を想って蘭の花を眺めている俺の背後に立つ人。
声を聞かなくても、その存在は大きくて偉大で、
「逢いたかったよ~!」
背中に抱きつかれ、正直、
「うざい。」
この国の長、俺の親父だ。
「うざいって酷いじゃないかマツ!
めちゃめちゃ久し振りなんだぞ!
このッ!親不孝者が!」
普段寡黙で威厳のある人物を演じているが、これがこの人の素の姿で、それを知る人も数少ない。
「デュラン、俺の息子は出来損ないだ!」
「マイ様、少し過剰に表現されるのがいけないのでしょう。」
さすがはデュランだ。
もっと言ってやれ!」
「何を言うか!デュラン。
息子が大人になったからといってスキンシップを取らないのはおかしいぞ!
そんな風に過ごすと子供はグレてしまうのだ。」
つぅか親父…
俺はもう十分グレさせてもらいましたが?
忘れたのか?
脳天気な親父の言葉にもう何も言わず、苦笑いを浮かべるデュラン。
正しい反応だ。
何を言っても耳を貸さねぇんだから…。
「それより、早く遥夢んとこに行かせろ。
てめぇだけなんだろ?
俺の記憶を抜けんのは。」
「そうだった。
その為に来たんだったな。
しかしマツ、立派になって…。」
ってまたふりだしに戻んのかよ!
クドクドとどうでもいいことを話す親父の言葉は耳を通り過ぎるだけで、だけど俺にとって痛すぎる話しが始まった頃には俺も真剣に耳を傾けた。
「長かったです。
今日も…。」
本題に入った頃デュランが思わず口にした言葉。
「確かにな。」
俺とデュランは目を合わせて笑い合った。
「後継者についてだが、マツ、お前はまだ抵抗するか?」
「もう逃げねぇ。」
「本当だな?」
「あぁ、本当だ。」
「良かった!マツ、お前立派になったな…」
また始まった脱線。
親父の癖だ。
「待て待て!ストップ!親父、俺を早く後継者にして記憶を抜いてくれ!」