only one
「起きなさい!
起きて下さいませ~!」
ユサユサと揺さぶられる体。
まるで船の上で揺られているような感覚に、
「おぇっ!気持ち悪ィ…。」
起きてすぐに感じる不快感。
「やっと起きましたのね。」
手を腰にあてて仁王立ちのデリー。
記憶を失って野垂れ死に寸前の俺を拾ってくれた命の恩人だと聞かされた。
「デリー、もうちょっと優しく起こせねぇのかよ。
あ―っ、気持ち悪ィ…。船に酔ったみたいだ。」
のろりとベッドから起き上がりボサボサの頭を手櫛で整える。
「早く顔を洗って来て下さいませ。
今日はディアスと遥夢と一緒にピクニックに行くって言ってましたわね。」
「あ゛?」
面倒臭ぇ…。
ピクニックだ?
子供じゃあるめぇし…。
「子供だけがピクニックをするとはかぎりませんわ。」
俺の心が見えるのか?
そんなことあるはずないのにデリーは時々鋭いツッコミを入れてくる。
「わぁーったよ。準備すればいいんだろ?」
面倒臭ぇ――…。
ため息を一つ零して俺は寝室を出た。
顔を洗い、髪を整える。
「デリー、飯――…。」
着替えを済ませてリビングのドアを開けた。
「あのっ!おはようございます。」
キッチンで忙しく動いているのは遥夢?
「おはよう、マツ。」
テーブルに座って優雅にコーヒーを飲んでいるのはディアスで、
「起きるのは遅いのに準備はやけに早いのね。」
遥夢の後ろからひょっこり顔を出したデリーが嫌味を口にしながら朝食を運んできた。