only one
来たときと同じように木に背中を預けて空を見上げた。
夜明けまで時間があるのだろう。
空は黒く、世界は月の光に照らされている。
黒い夜空に瞬く数々の光、その星たちの光の中で最も光り、輝く月の光は唯一無二の光。
縮むような痛みを胸に感じて、ぎゅっとシャツをつかんだ。
「マツさん、お話してもいいですか?」
静寂を破る透き通った遥夢の声に俺は言葉を返さなかった。
遥夢の存在が俺をおかしくする。
遥夢に触れてしまってから、俺は木にも月にも心が反応しなくなった。
あたたかいと求めていたものが一気に色褪せてしまったことに戸惑いを感じたんだ。
「聞いてくれるだけでいいんです。」
返事をしない俺に遥夢は弱々しく言葉を落とす。
「私、きっとマツさんが好きなんだと思います。」
「あ゛?」
話すつもりなんてなかったのに、思わず声を漏らしてしまった。