only one
「マツさんのそばにいると胸がギュッとなるの。」
今の俺と同じように?
「マツさんの声を聞くと胸がドキドキうるさくなるの。」
俺もだ。
「ずっと触れたかった。」
何に?
「あっ!…
なんか私がエッチな子だって勘違いしないで下さいね。」
ずっと何も反応せずに心の中だけで相槌を打つ俺に焦ったように言葉を紡ぐ遥夢。
「さっき抱きしめられてわかったんです。」
いつの間にか俺の前に立つ遥夢。
月の光を浴びて白い肌が透き通るように輝いて見えた。
「記憶の奥底に眠る大切な人があなただって…。」
戸惑い動けない俺の瞳に映る遥夢。
彼女の瞳からはポロポロと涙が零れ落ち、キラキラと光りながら地面に吸い込まれていく。
「抱きしめてくれませんか?」
俺のそばまで足を進め、地面に膝をついた遥夢は俺の肩に額をあてるように倒れてきた。
突然すぎる展開に頭はついていかず受け止めきれなかった俺は後頭部を木にしこたまぶつけて目の前に星が瞬く。
両手をぶらりと下げたまま木に背を預け、そんな俺に体を寄せる遥夢。
きっと他人が見れば情けない格好なんだろう。
だけど、そんなことを考える余裕さえ俺には無かった。
「バッ…
バカかお前は!
危ねぇだろうが!」
遥夢の肩を両手で柔く押しながら声を荒げて話し掛ける俺に、
「ごめんなさい…。」
遥夢は俯いたまま体を起こし、言葉を落とした。
離れてしまった遥夢のぬくもり。
寂しいと感じることに更に戸惑う俺。
「迷惑ですよね…。
急にこんな…。
困っちゃいますよね。
本当にごめんなさい。
忘れて下さい。
さっきの話は…。」