only one


遥夢の告白に俺の心は満たされた。


俺の胸に恥ずかしそうに顔を埋める遥夢の背中をギュッと抱きしめたんだ。


どうしてだかわからない。


だけど理由なんていらねぇ。


俺は遥夢が好きだ。


ずっと気になってたんだ。


ディアスと仲良くする遥夢、奴に笑いかける遥夢。


それを見る度にイライラしていた。


それは遥夢が好きだからだろう。


記憶なんていらねぇ。


無くした記憶を取り戻すより大きなものを手に入れた。


「なぁ、遥夢。
俺、大事なもん忘れてたかもしれない。
けど、お前いるし…。
もういいかなって思っちまった。」


「え?」


「記憶、別に戻らなくてもお前いたら楽しめそうだ。」


「そんな…。」


困ったように眉を下げる遥夢。


真面目な遥夢の事だ。


ディアスやデリーの胡散臭いボランティア団体に申し訳ないとか考えているんだろう。


「ディアスが気になるか?」


「今までとってもよくして頂いたんです。」


「ディアスが好き?」


「はい。
……でもそれはマツさんの好きとは違って、…その…なんていうか…えっと…。」


言葉の途中で瞳を伏せて俯いてしまった遥夢。


ディアスを恩人として感謝しているが、男として見ていないと言いたかったのだろう。


だけど助けてやんねぇ。

なんか、イラつく。


ニヤニヤ笑って見ている俺に遥夢は顔を上げてキッと睨んだ。


だけどその瞳には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうで、


「俺も、デリーに感謝している。
デリーの事好きだ。
けど、それは女としてではない人間として好きなんだ。」


そんな感じ?って言いながら遥夢を見ると、遥夢はニッコリと笑った後、俺の胸に拳をあててトントンと叩いてきた。


「マツさんは意地悪です!」


わかっていたのに助け船を出さなかった俺に頬をぷくっと膨らませて拗ねていた。


「その顔だ。」


「え?」


「お前のその顔を俺は覚えている。」








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