only one
懐かしい温室。
再現されたものだと知りながら、彰人が扉から入ってくるような気がする。
傷ついた遥夢の気持ちを癒すために彰人と三人でお茶を飲んだガーデンセット。
竜一の動向を見張るために設置したモニター装置。
遥夢と結ばれたベッド。
「そっくりじゃねぇか。」
ただ違うのは、遥夢の心。
いや―…。
心じゃねぇ。
記憶がねぇだけだ。
心は失ってねぇ。
「遥夢。」
「ん…。」
「目を覚ましてくれ遥夢。」
「嫌っ!」
首を懸命に振りながら俺の体を押し返す遥夢。
ディアスと間違ってるんだと知りながらも軽く傷ついた。
「遥夢!目を覚ませ!
俺だ!マツだ!」
「嫌――…。」
力無く拒否の言葉を口にして驚いたように目を見開いた遥夢。
「嫌?なんだ?」
だからちょっと意地悪く言葉を返してやった。
「マ…ツ……さん…?」
幻でも見たかのような様子の遥夢が俺の頬にそっと手を伸ばしてくる。
「マツだけど?
誰と間違ったんだよ!
お前の側にいるのは俺だろ?」
自信満々、胸を張って言葉を掛けてやる。
遥夢はニッコリ笑って頷くとポロポロと涙を零した。