私はその日、友人Nの家に遊びに行っていた。
明日は日曜で仕事も休みのため、Nと酒を酌み交わしながら、さして興味のありもしない政治の話やら、芸能人のゴシップ、社会情勢と話題は代わるが、とるに足らない雑談だ。
それでもNと話すのは久々というのもあって、話がつきることなく夜もふけていった。
私は話をしながらも、瞼がとじはじめた。酒の酔いがここにきてまわりはじめたようだ。
それでもなんとかNの話を聞いてはいたがうとうとしはじめた。
ふと目がさめて、虚ろな意識で周りを見渡してみると、部屋は薄暗く、うっすらとではあるが、隣どNがいびきをたてながら横になっている。
いつの間にか寝入ってしまっていたのだ。
私は尿意を覚え、ふらつきながらもトイレへと体を動かした。
Nの家は昔ながらの木造住宅で一軒家だ。だが建物自体がだいぶ古いのもあって、建物がきしむ音がしたり、結構あちらこちら傷んでいるので、仲間内からは幽霊が出ると噂されている。
むろん、トイレも例に漏れず、木造の汚らしい作り。トイレというよりも便所の方がしっくりくる作りなのだ。
トイレは、月明かりが入り、電気を灯さなくとも用を足せるほど明るかった。
私はわざわざ電気をつけて眠気を無駄に追いやることもないだろうと、そのままトイレに入り、戸を閉め、『カチッ』と鍵を掛けた。
すると、それまで薄明かりでもわりに明るかったトイレは急に暗くなり、空気が妙に重く感じた。
月が雲で隠れたのかなとか、気のせいだろうと考えることにし、顔を便器に向け直した瞬間
突然壁から二本の白い手のようなものが、ぬーっと現れ、腕にしっかりと絡みついてきた。
私はそれが何なのか分からなかったが、普通ではないものであるということだけは本能的に悟った。と、同時に恐怖が身体中を覆い尽くし、体はこわばり、息をするのでも、空気を吸い上げることができないような息苦しさ、声も喉が渇ききっているのか発声できない。
その間も二本の手はすごい力で腕と身体を一気に壁際まで引き寄せた。体と壁には距離はなく、耳は壁にぴったりとくっついている。
もがいて壁から離れようとするのだが、どういう訳か壁から離れられない。
壁と耳が一つに繋がれてしまったかのように。
そして私の意志とは無関係に壁に耳が意識をむけている。
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