孤高の狼に捧ぐ恋唄
試練
ある日、いつものように『セレネ』へ行き、扉を開けた。
カランカラン……
鐘の音と同時に
「来るな!」
と言う鋭い声。
私はびくっと動きが止まった。
目の前に刃物が突き出されていた。
私は、刃物から視線を手、腕、顔へと移す。
にやぁっと口を開けた男が、私に刃物を突きつけながら、月に言った。
「だからさぁ~、俺は、こないだの借りを返しにきたんだよねぇ~」
語尾を伸ばしながら喋るその男は、年は私たちとあまり変わらなそうだけれど、退廃的で不健康そうだ。
もしナイフを突きつけていなかったとしても、気味が悪い男だと思った。