孤高の狼に捧ぐ恋唄
病室へ入ると、私はベッドへ戻り、マスターは椅子に腰掛けた。
白い空間を、ゆっくりと時が刻む。
しばらくして、マスターが口を開いた。
「今日、事件のことで警察に呼ばれて行ったんだ」
マスターは、両手を握り合わせた。
「明日香ちゃんと月を傷付けた男の子は、亜龍(アロン)っていうらしいね」
名前を聞いて、一瞬にしてあの時間が蘇る。
『俺はぁ、アロンね』
男の粘り気のある声が聞こえた気がした。
「明日香ちゃん?大丈夫?
ごめんね、こんな話をして」
心配そうに私の顔色を見るマスターに、私は首を振った。