夢と現実
「ねえ」

「なにおじさん」

「夢がひとつしか叶えられなかったらどうする」

「うーん」


子供はしばらく首を傾げて考えにふけっていたが、男を見つめて言った。


「僕が月になりたくないって言ったら」

「うん」

「もし僕が宇宙に行かないって言ったら」

「うん」

「おじさん寂しくなるよね」

「…そうだなあ」


子供は切なそうにうつむき。

ふいに顔を上げた。


「僕が頑張ればいいんだよね」

「え?」

「頑張って、お月様にもなるし大統領やサッカー選手、パン屋さんにもなるよ」

「…そんな」

「僕が我慢すればおじさんひとりにならないでしょ」

…この子は、自分のことより自分のことを気にかけている。

昔は自分もこんなに純粋だったんだろうか。

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