捨て猫に愛をください
AM6:53
いつの間にか眠っていたテツの肩に毛布が掛かっていた。
─────…ハッ
ナツミ!!
慌てて妹の顔を見る。
パサパサの髪を指で避けると,穏やかな寝顔が現れる。
美しく,整った顔は色を取り戻しつつあった。
ホッとして,ナツミの髪を撫でてやる。
手入れもせずに・・・いや,出来ずにいる髪は毛先が傷んで色が薄くなっていた。
(退院したら,髪を切りに行こうな…。)
そう妹にささやいて立ち上がり,病室を出た。




AM7:15
昨日のあれは悪夢。
そう思うしかなかった・・・。
カナミはあの薄汚いアパートでの出来事が脳裏に焼き付き,歩く事もままならない。
声を発する事も,何かをしようとする気力も奪われ,判断力は鈍っている。
人気の少ない道路を1人歩く。
ズリッ・・・ズリ・・・ズッ・・・
と,不規則な足音は引きずるかのようで。
歩く度に全身が痛い。
重い。
けれど浮いているかのような不思議な感覚。
(テツ・・・・・・テツぅ・・・)
うわごとのように何度も何度も繰り返し頭の中に響く名前。
(テツ・・・・・・・・・・・・)
カナミにはもう,それが名前なのかすら理解できない。
でもなぜか響き続けている。

──忘れてはいけない。
本能的にそんな気がしたからなのか。
ズリ・・・ズッ
と足音は寂れた公園に向かってゆく。
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