ときどき阿修羅!!

 看板同様、『犀律』となんて読んだらいいのかわからない歌舞伎文字が入ったワゴン。

 さすがお花屋さんの車。
 普段、花を積んでいるからか、乗り込んだ瞬間、後ろから甘く爽やかで瑞々しい香りが漂ってくる。これぞ本当のフローラルって感じ。

「リセさんは、おいくつなんですか?」

 シートベルトを閉めながら、リセさんの横顔を覗く。

「俺? 26だよ。……名前、律犀(りっせい)だけどね」

 リセさんは、ハンドルに体を預けて身を乗り出し、左右を確認する。

 柴犬みたいな童顔から、二十歳前後かと思ってたけど。結構なお年で。

「その……タマキさんも同い年ですか?」

「タマキは、俺のいっこ下。
唯ちゃんはいくつなの?」

 ということは、上の上の君は25歳!
 理想の歳の差!!

 ワゴンは、滑らかに左折。徐々にスピードにのる。

「17です」

「へえ、17。高校生か……って、高校生!?」

 リセさんが声を張り上げた直後、体が前につんのめり、タイヤの軋む音が鼓膜をつんざく。
 上半身はシートベルトで止まり、その反動でシートの背もたれで2回弾んだ。

「リセさん! 急ブレーキなんて、びっくりするじゃないですか」

「ご、ごめん、ちょっと驚いて。
若い子だな、とは思ってたんだけど、まさか高校生だったなんて。
うーん、大丈夫なの?」

「怪我はしてないです。ちょっと胸が痛いくらいで」

「そうじゃなくて。
住み込みだけど、大丈夫?
アシが無いところに住んでるから、あいつ」

 す、住み込み!?
 極妻修行って、住み込みでみっちりやらないとダメなの?

 ああ!
 銃器の扱いとか、凄みの利かせ方とか、あと一番肝心な広島弁もマスターしなきゃだもんね。
 考えてみれば、大変だ。とくに広島弁。
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