ときどき阿修羅!!
沈丁花が如く
「つーことで、俺、もうちょい寝るから」
タマキさんは刀を鞘に納めると、欠伸をかみ殺しながら立ち上がった。
それから、首の後ろに手を置いて、私を静かに見下ろす。
「いい子だから、逃げんなよ……唯」
また……。
心臓が飛び跳ねる。
ひとしきり悪戯を企む子供みたいな含み笑いを私に向けて、踵を返した。
「律、その剣道バカが逃げないようにフォローよろしく~」
え……?
今、タマキさん、剣道バカって……。
なんで……?
日本刀の鞘をその肩で弾ませて、反対の手をヒラヒラさせながら部屋の中に入っていくタマキさんの背中をただ見送ることしか出来なかった。
「ったく、あいつは……。
唯ちゃん、大丈夫?
とりあえず、これ」
リセさんは、自分が来ていたTシャツを脱いで、しゃがみこんだままの私に被せる。
花の、甘く青っぽい香りが鼻腔をくすぐる。
「あ……リセさん、ありがとう。
でもリセさんは……」
上半身裸のリセさんは、私の目線を合わせるように、私の目の前にしゃがんだ。
「俺? 俺は男だから平気だよ。
今、夏だしね。
あとでタマキの着るから、気にしないで」
リセさんは、ふわり、と微笑む。
Tシャツから淡く香る花の香りと、すっと心に馴染む飾らない笑顔が、ぎゅっと縮こまっていた心と体がほぐれていく気がした。