ときどき阿修羅!!

「アイツ、噂どおりでしょ?」

 リセさんに勧められるまま、縁側に座った私にそう苦笑いを向ける。

「噂?」

「そ。あれ? 聞いたこと無い?
今までの弟子君たちが口を揃えて言うから、刀剣界じゃ結構有名だと思ってたけど」

 隣に腰をかけたリセさんは、後ろに付いた両手に体重を預け、空を仰ぐ。

 私もならって見上げると、青々とした空にぽつぽつ、と小さな雲が浮かんでいた。

「“礼儀知らずで、刀のことになると人が変わる、奔放な厄介者”」

 空に浮かぶ雲に負けないくらい、ぽつり、とリセさんは呟いた。

 私は、何も言えなくなった。

 そのリセさんの声が、すごくすごく寂しそうに聞こえて。

「ま、その通りなんだけどね。
でも、タマキにフォローしろって言われたから、一応フォローしとくね」

 リセさんは、空に向かってにっこりと微笑む。

 ああ。

「あんなどうしようもないヤツだけど、弟子が引っ切り無しに来るのは、やっぱり、刀工としての腕がいいからなんだ」

 ああ、そうか。

「人が変わるっていっても、どっちも本当のタマキ。
だけど、刀は、スイッチなんだ。
オンとオフ。
タマキにとって、作刀は仕事じゃない。
人生そのものなんだよ」

 リセさんは、タマキさんのこと、とんでもなく好きなんだ。

「タマキは、刀に触れているときだけを生きてるんだ」

 いいなあ。

 羨ましい。

 これをきっと、友情っていうんだろうな。

「あ、こんなこと言ってもわからないよね」

「いいえ、わかります。
なんとなく……」

 
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