ときどき阿修羅!!
「唯ちゃん、どうする?」

 リセさんは、背中を丸めて、私の顔を覗きこむ。

「タマキはあんなふうに言ってたけど、強制じゃないんだ。
弟子入り、しなくてもいい」

 なんでだろう。

 ここで首を縦に振るのは、きっととっても簡単なことなんだと思う。

 いくら、上の上レベルのイケメンったって、あんな阿修羅みたいな人と一緒に生活するなんて、とんでもない。

 もしかしたら、タマキさん以外にも、上の上レベルに王子様がこれから先、現われるかもしれない。

 それなのに……。

「リセさん、私、弟子入りします」

 私の感情と口から飛び出た言葉は矛盾していて。

「唯ちゃん、本気?
あんなことされて……」

 目を丸くしているリセさんより、驚いていたのは他でもない、私自身だった。

 人生の一大決心をした、みたいに心臓がバクバクして、それでも、頭の芯はとても冴えていて、今まで経験したことがない、不思議な感覚が私を支配していた。

「リセさん、私、お母さんに電話してきます」

 私は立ち上がって、ポケットに手をつっこんだ。

 ヒヤリとした表面の携帯電話をきつくきつく、握り締めた。 
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