ときどき阿修羅!!

 当初のぐっちゃりぐあいから考えると、驚くほど短時間で部屋が息を吹き返してきた。

 リセさんの手際のよさに『主婦の鏡』という4文字が頭に浮かんできた頃、

「りっちゃーん」

 という声が聞こえてきた。

「りっちゃーん」

 その声がだんだん近づく。

 リセさんは、まるで死の宣告を受けたかのように顔を引き攣らせながら、壁にハタキを掛ける。

「リセさん、呼んでますよ」

「無視」

「え、いいんですか?」

「いいの。どうせ、練に――」

 溜め息混じりのリセさんの言葉を遮るように、襖が開いた。

 そこに立っていたのは、ジョッキと紅いチューブを持ったタマキさん。

「居た、律ちゃん。
練乳が足りないんだ……」

 そう言いながら目に涙を溜めるタマキさん。

 か、か、か。

 神が創り給うた奇跡!!

 母性本能をくすぐる為にしているとしか思えないその表情は、何かの殺戮兵器ですか!?

 ずっきゅーんって心臓に直撃した恋の弾道ミサイルで、私、昇天寸前です!!

「これ見て。これしかないんだ」

 タマキさんは、ジョッキをリセさんに突き出す。

 クリーム色の粘度の高そうな液体がジョッキの半分近くを占めてタプタプしてる。

「喉かわいて起きたんだけ――」

「練乳を飲むな!!
余計、喉渇くわ!!」

 ……ごもっともです。
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