ときどき阿修羅!!

「おいおい、律、なーに怒ってんの?」

 廊下の方から声がして視線を向ければ、襖の向こうに男の人が立っていた。

 上の中!!

 袴をはいたその人は、すらりとした出で立ちで、切れ長で涼しげな目元と引き締まった口がこの上なく上品。

 口元のほくろが色気を醸し出すのって大人の女だけじゃないんだ。

「ユキ! やっぱり来た」

 振り返ったタマキさんが、明るい声を出す。

 ユキ?

 ユキって、さっき耳にしたような……?

「あれ? なんでここに可愛い女子高生がいるんだい?」

 私、高校生ってこと言ったっけ?

 ユキと呼ばれた人は、タマキさんに赤いチューブが山盛り入った透明のビニール袋を「おみやげ」とタマキさんに渡し、そのままこっちに歩いてくる。

 って、私、高校生ってこと言ったっけ?

 袴をはいた(しかも上の中!!)綺麗な男の人は、私の目の前で立ち止まって目を細めて笑顔を湛えた。

「初めまして。僕は元橋愉公(ユキミ)」そこで、言葉を止めて私の右手をとった。「今夜一晩、僕とめくるめく愛の世界を旅しないかい?」

 ユキミさんは私の手の甲に唇を寄せる。

 ええ!?

 いきなり、なんの展開ですか!?

 あわや接触、というところで、右の肘が後ろに引っ張られた。

「ユキ、だめ」
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