ときどき阿修羅!!
 はあ、と溜め息をついて廊下に消えたリセさんの背中を見送っていると、ユキミさんが、「そうかそうか」と着物のたもとに両腕を入れた。

「唯ちゃん、タマキは大変だよ。
僕にしとかない?
伊達に25年生きてな――」

「大変って……?」

「なるほど。後半のお誘いは無視なのね。
……唯ちゃん、服斬られたってことは、あっちのタマキを目の当たりにしたんでしょ?」

 あっちのタマキ……?

 ああ!! 忘れてた!!
 阿修羅のタマキさんだ!

『弟子ってもんはなあ、師匠に逆らっちゃあ、いけねえ。
何があっても……何をされても、だ』

 今のタマキさんより、1オクターブ低い阿修羅なタマキさんの声が頭の中に充満する。

「ヒィィィ!!」

 思わず上がった肩をユキミさんが優しい手つきで撫でさすってくれた。

「随分脅されたみたいだね。
律から聞いてるかもしれないけど、今こうやって、無我夢中で練乳を絞ってるタマキも」

 ユキミさんは、タマキさんを親指で指す。

「刀触ってるときのあのタマキも、ひとりのタマキだから。
ほら、ハンドル握ると狂ったように叫びながらスピード出す人いるでしょ?」

 叫ぶかな? と思いながらも、頷く。

「タマキは、それと同じようなもんだよ。
刀の事になると歯止めが利かないんだ」

 ……タマキさんの場合、そういうレベルじゃないような。

 という呟きは、阿修羅なタマキさんの恐ろしい笑みがちらついて、口に出せなかった。
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