ときどき阿修羅!!

 玄関を飛び出し、向かうは商店街。
 お花屋さんをロックオン。

 うだるような暑さもなんのその。
 当然!
 だって、私の胸で燃え上がる恋の炎の方が熱いから!!

 恋する乙女のテーマソング(『全国美男子至上主義連盟』にて絶賛発売中)を歌いながら長い坂道を駆け下る。

 見えた!!
 ワイドショーでやってた、南町銀座商店街!
 銀ブラで有名なアソコとは全く関係ないのに「銀座」って堂々と名づけちゃうシュールな商店街。

 お目当ての花屋は商店街に入ってすぐのはず!

 全力疾走で商店街の入り口を示すアーチをくぐり抜けた。

 ストーップ!!

 運動部に所属していない私の肺は、高々200メートルくらいの距離で驚異的なあえぎを示す。
 ちょっとでも気を許したら、それこそ痙攣しちゃいそうなくらい。

 肺が痙攣するのどうかは、知らないけれど。

 私は、肺の仕組みなんか興味ない。興味があるのは……。

 膝に手をついたまま、顔を横に向ける。

 『犀律』と行書で書かれた木製の看板。
 花屋なのに『屋張尾』と書かれていてもおかしくないような、物々しい雰囲気が漂う。

 その癖、ちょっと視線を下へ移動すれば、道に面した壁はガラス張りになっていて、開放的で明るい店内。

 軒先にはピカピカに磨かれたスレンレスのバケツ。そこには、無造作とは程遠い、整然と、しかしパッと目につく配置で花がいけられている。

 つまり、すごーくちぐはぐしているのだ。
 はっきり言って、趣味とセンスが良いのか悪いのわからない。

 この花屋こそ、さっきワイドショーに出ていた花屋。

 ここ通る度、いっつも疑問に思っていたんだよね。
 『犀律』ってどう読むのかって。

 普通は、もっと馴染みやすそうな名前をつけそうなものだけど。

 例えば「フラワーキクチ」とか「タケナカフラワー」とか、さ。

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