ときどき阿修羅!!
ガソリンスタンドの隅に設置してある自動洗車機の入り口みたいな黒いゴムのカーテンの中に車体は進む。
バックライトに照らされた看板には「エスタリア」。
その下に『平日昼間、一律4000円の文字。
「唯ちゃん、着いたよ」
ユキミさんは、サイドブレーキを引き上げ、シートベルトをはずす。
…………。
「……へえ。
個別駐車場に黒いビラビラがついてたり、ナンバープレートを隠す板が置いてあったり、薄暗い駐車場から直結して各部屋に行ける仕組みなんて、素敵なブティックですねー」
「でしょ? 中も綺麗なんだよ。早く行こ――」
「夏物一斉バーゲンですかあ?
『4000円』って書いてありますけどー」
「平日の昼間のラブホって安いよねー」
「安いですねー。って、ユキミさん、ラブホって言っちゃいましたねー。
……今すぐシートベルトをつけてバックしないと交番に駆け込みますよ」
「オニイサン、伊達に25年生きてないから、唯ちゃんを喜ばせる自信あ……」
「1、1、0、っと」
素早く携帯電話を取り出して、プッシュ。
「ゆ、唯ちゃん、ご、ごめんごめん。道、間違えちゃったみたいだわ」
「ですよねー?
こーんなやらしいところに服なんか売ってないですよねえ?」
「その目で確かめてみる?」
…………。
「もしもしー、あのー、変質者が……そうですー。
ええと、眼鏡かけてて、着物に袴でえ、茶道の家元――」
「ご、ごめん!! だから、その、携帯切って……?」
携帯電話の声が入るところを手で遮って、ユキミさんに笑顔をむける。
「バックします?」
「……はい」
「――すいませーん。人違いだったみたいですー」
終話。
「唯ちゃんって、笑顔でキレるんだね……怖い」
「何か?」
「いいえ……」