ときどき阿修羅!!
「あ、ユキミさん、その先、左です」

 ユキミさんは、細長い指でウインカーのレバーに触れる。

 随分早い意思表示だな……と思ったところで、車体は路肩に寄り、ハザードのバックライトが点灯した。サイドブレーキが引かれる。

「あれ……ユキミさん……?」

「ベッドの中で訊き出そうと思ったんだけど、唯ちゃん案外、守備堅いんだもん」

 案外って……この人、私の事なんだと思ってるんでしょうか。

 今日会ったばかりですよね? 
 初対面の男の人に守備もクソもないと思いますけど。

 おもむろにシートベルトをはずしたユキミさんは、眼鏡を外して、「ちゃんと答えてね」と切れ長の目から覗く眼球をゆっくりと私に寄越した。

 (怖い方の)タマキさんとはまた違った鋭い視線。

 私の瞳を貫通して、頭の中にあるものを見られているみたい。

 背中がぞくりと縮んだ。

「何が目的?」

 今までの、どこか茶化すような口調とはまるで別人の響き。

 一瞬、何を言われているのか、よくわからなかった。

 まるで、ナイフのひとつでも突きつけられたような感覚に陥ってしまうほど、冷たく私の頭に響く。

「目的って……」

 言葉が詰まる。

「刀に興味があるようには見えないんだよねえ。
いや、ね。今までの弟子たちと雰囲気がまるで違うんだよ、キミは」

 『キミ』という単語で一気に遠いところに押しやられた気がした。

 確かに。

 私は刀に興味はない。

 よこしまな気持ちで、更に言うなら勘違いの連鎖で弟子入りしようとしている。

 それは、こんなふうに冷淡な視線と言葉を浴びせられる理由になるのかな。

「私はただ……」

 やっぱり言葉がつまる。

 刀に興味がないということで、後ろめたい気持ちは私の中に確かにあるみたい。
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