ときどき阿修羅!!
 狭い車内に重い沈黙の空気は簡単に充満する。

「僕だったらいいんだけどね」

 バックミラー越しに後ろの買い物袋の山を見つめていた私は、慌ててユキミさんの横顔に視線を戻す。

「女の子に騙されてもいいだけの小金も持ってるし、女の子は多少悪いほうが可愛いと思ってるから」

 ユキミさんは、私がタマキさんを騙そうとしてると思ってる……?

「そんなつもりは……!!」

「そう」

 必死な言葉も一言でばっさりと切られてしまう。

 どうしよう。

 タマキさんに一目ぼれしてしまったんです、と正直に言ってしまおうか。

 否、そんなことを言えば、きっとこのまま家に送り返されてしまうに違いない。

「あのタマキが、随分とキミのことを気に入ってるように見える。
どんな手を使ったのかオニイサンに教えてくれない?」

 どんな手も何も……。

「何もしていません。
リセさんに聞いてもらえばわかります!」

 ……だんだん腹立ってきたぞ!
 なんでこんな言われ方しなきゃいけないんだ!

「律ねえ。
……律とはどういう関係?」

「今日初めて会いました」

「へえ。どこで?」

「リセさんの花屋さんで!」

「ふうん。それが本当なら僕の思い違いだ、ね」

 本当です!
 なにこの人!!



 
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