ときどき阿修羅!!
「なんて、ね。
虐めすぎちゃった?」

 ユキミさんは、にっと口角を上げて私の頭に手を伸ばした。

 ……え?

「いいよ、いいよ。好きにして。
タマキはあんなだけど、女の子に騙されるタマじゃないから」

 何故か私の頭を撫でながら「いっそ、マタキが騙されるとこ見てみたいし」と白い歯を見せた。

 そして、私の頭を撫でたその手で眼鏡を取り上げる。

 変な人。
 結局なにが言いたいんだろう。

 開いた眼鏡のつるを唇の端に寄せる、その滑らかな指の動きを、呆然と目で追うことしかできなかった。

「僕は臆病なんだ。
律とタマキの関係が壊れるのが怖い」

 シートベルトを付けながら、自分の血液型を明かすくらいの軽さで言ってのけた。

 その音声から感情は読み取れない。

 ただ、眼鏡のつるをカリッと噛む口元は重く沈んで見えた。

 無意識に言葉が飛び出す。

「こ、壊れてしまう関係には、見えませんでしたよ!」

 私の頭に浮かんだのは、青空の下でタマキさんを庇うような言葉を並べる、どこはかとなく嬉しそうなリセさんの顔。

 フロントガラスいっぱいに、どぎつい茜色が広がっていた。
< 56 / 101 >

この作品をシェア

pagetop