ときどき阿修羅!!
雀蘭が如く
「あのぉ、お風呂いただきましたぁ」
一日の汗を綺麗さっぱり流した私は、居間に顔を出した。
すっかり後片付けが済んだテーブルには誰もついていなくて、視線を奥に走らせる。
縁側に座ったリセさんの背中が視界に入った。
リセさんの顔付近から闇夜に白い煙が細く昇る。
「リセさん、お風呂いただきました」
縁側、私はリセさんの隣に腰を下ろした。
「あ、唯ちゃん」
リセさんは、目を見開いて私の顔を見ると、慌てた様子で手に持っていた灰皿に煙草を押し付けた。
「リセさんって、煙草吸うんですね。なんか意外だなあ」
山に囲まれたここから見る星は、そのひとつひとつが己を主張するように輝いて見える。
「やめようとしてるんだけどね、うまくいかなくて」
リセさんは困ったように笑いながら、頭をかいてみせた。
「真っ暗ですね、外」
「山の中だからね」
「セミが煩いですね」
「はは。山の中だからね」
私は、生まれて初めてセミの鳴き声に耳を傾けた。
7年も暗い土の中にいて、やっと出てきたと思ったら7日間鳴き通して死んでしまうセミは、どんなことを考えて羽をこすり合わせているんだろう。