ときどき阿修羅!!


 台所からもれる流水の音を聞きながら、私は廊下の突き当たりに突っ立っていた。

 し、心拍数が!!

 この襖の向こうにタマキさんが!!
 しかもしかも、今日から一つ屋根の下で、ふたりきり……。

『唯……一緒に寝よっか』

『なんで、布団二組敷くの? 一組でじゅうぶんだよね』

『枕? おれの腕枕じゃ、嫌?』

 キャーキャー!!

 いやん、もう!!
 タマキさんったら!!

 タマキさんの部屋の前。

 私の脳内ビジョンは、果てしない妄想が広がってお祭り騒ぎ真っ最中。

 ごくり。

 生唾を喉の奥におしやって、襖に手をかけた。

 お父さん、お母さん!!
 ふしだらな娘でごめんなさい!!

 私は、ひといきに襖をあけて声を張り上げた。

「タマキさん!! よろしくお願いします!!」

「あ゛?」

 直角に下げた頭に、この世の不機嫌を全て詰め込んだような、獣の唸り声にも似た低い声が降ってきた。

 ……ええと。

 ゆっくりと顔を上げると。

 和紙のようなもので、刀の刃を持ったタマキさんが……。

「るせえな。早く閉めろ」

 あ……。

「ハ、ハイィィィ!!」

 部屋の外に立ったまま勢いよく襖を閉めると、スパンといい音が廊下に響いた。

 こ、怖かった……。
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