ときどき阿修羅!!
「あー、めんどくせ」

 やっと私の耳に届くくらいの大きさでそう呟く。

 ……ほんと、性格悪いな、阿修羅な方のタマキさん。

 はっきり言うか、それとも心の中でそっと言うか、どちらかにしていただけませ――とまで腹の中で悪態をついていると、タマキさんは私の背後に回った。

 そして、私の後ろで座った気配。

 うん、気配だけ。怖くて振り向けないもの。
 振り返ったら魂持っていかれちゃうよ、って怪談のあの感覚。

「刀工になりたくて、刀の手入れもできねえなんてどういう事なんですかねえ」

 ぞくり。
 嫌味たっぷりなのに妙にあだめいた声色が聞こえたと同時、暖かい吐息が耳にかかった。

 首筋が強張る。

 急に心臓が打楽器になりやがった!

 その、近いんです!!
 近すぎやしませんか!?

 いくら阿修羅の性悪タマキさんでも、あの素敵タマキさんと同一人物。

 私が横向いたら、もうそれだけでちゅー出来ちゃう距離にいて。

 でも、今は、性悪タマキさんで、私が恋してるのは素敵タマキさんであるからして。

 ……だあぁぁ!!

 わけわかんなくなってきたぞ!!

 ときめいて高鳴っているのか、恐怖にバクバクしているだけなのか、どっちなんだい、私の心臓君!!

「――てめ……聞いてんのか、よ!」

「い゛!!」

 後頭部を硬いもので小突かれてガックン。

 ぐわんぐわん揺れる脳の狭間を、女の子の後頭部殴るってアリですか、の文字がゆっくりとスクロールしていった。
< 76 / 101 >

この作品をシェア

pagetop