ときどき阿修羅!!

「ちっげーよ、バーカ!
右の親指で鞘を押しながら、人差し指を引いてくつろげるんだよ。
こうだよ、こう!!」

 目の前で、鯉口(鞘の口が鯉の口に似ているからこう言うんだって)からほんの少しだけ鉄部分が覗き、また閉まる。

 そして「何度言わせんだ!」と側頭部に3度目のデコピン。

「いっ!!」

 うぅ……。

 デコピンは、痛くないけど、正直ビビる。字余り。
 唯ちゃん、心の俳句……。

「はあ。いくらなんでも不器用すぎだろ。
……ほら、もっかいやってみ」

 タマキさんは半ば呆れ口調で後ろから囁くと、私の頭をぽすぽすと撫で叩いた。

 刀を抜くために、柄から少しだけ刃を出す作業らしい。

 いまいち、何のためにやっているのかわからないんだけれども、難しい。 

 ええと、親指でおしつつ……人差し指を引く!!

 鞘と柄がすっとスライドして、ちらり、鯉口が光った。

「できた!! タマキさん、できたよ!!」

「お。そうしたら、今度は静かに払ってみろ。
刃と鞘の中を傷つけないように、一息にひく。
そうだ。ゆっくりでいいぞ」

 蛍光灯の光を強烈に反射する刀身が徐々に姿を現す。

 その姿は漆黒のようで、透明のようで。
 光を放っているようで、逆に光を吸収しているようにも見えて。

「綺麗……」

 私は思わず、そう口に出していた。
 

< 78 / 101 >

この作品をシェア

pagetop