ときどき阿修羅!!
「手ぇ出すな!!」

 無意識に出した右手を掴まれ、後ろに引かれてた瞬間、小指にチッと熱が走った。

「いっ……」

 と、とん。畳の上に落ちた刀は、鈍く、鋭く、不思議な輝きを見せる。

「刃の下に手ぇ出すやつがあるか、バカ!
おじょーちゃん、エンコ詰めご希望ですかあー?」

 指、落ちちゃうとこだった……?

 そう思った途端、血の気がスーっとひいて、脳細胞に膜でもができたかのように朦朧としてきた。

 手を持ち上げられ、タマキさんの嫌味大奮発な声が、ふわふわする脳を無遠慮に叩く。

「あーあー、切れてやんの」

 私の小指をまじまじと見るタマキさん。
 その目がゆっくりと移動して、視線がかち合った。

 タマキさんは、私の瞳を横目に直視したまま、艶然たる笑みを口元に浮かべ、真っ赤な玉が膨らむ小指に唇を寄せる。

 こんな……表情……。

 ぐにゃりと視界が歪んでしまわないのが不思議なくらいの、強烈の色香。
 今まで17年間、眠り潜んで私の中にあることすら知らなかった、官能をぐらぐらと刺激する。

 この世の者とは思えないくらいの美貌の持ち主だから、尚タチが悪い。

 見えるか見えないか程度に出した舌先がゆるりと傷口を舐め上げた。

 物理的に小指に感じる感覚はくすぐったいのに、私の心臓は噛みつかれて食いちぎられたようで、苦しい、痛い。

 この、眼のせいだ。

 飢えた獣の眼光。

 私の全てを貪りつくされてしまうんじゃないかって、強迫観念に駆られて身じろぎひとつできず。

 熱い舌が皮膚を小さく往復するたび、傷口がじんじんと悲鳴を上げた。
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