ときどき阿修羅!!
「…………っ」

 顔が熱くて、目頭はもっと熱い。
 鼻の奥がつんとする。

 奥歯を強く噛み締めないと、嗚咽が漏れてしまいそうになる。

 正座している太ももに、ぽたりと涙が落ちた。

 頭の中はすでにぐちゃぐちゃで、突き上げるような強烈の感情と、もやもや胸に溜まった感情がぐるぐる渦巻いて。

 その二つの感情が一体何なのかわからない。
 
 ただ、胸にひしめくそれが、怖い。

 そして、ひたすら、悔しい。

「いい顔」

 小指を口から出したタマキさんが呟く。

 包み込むような優しい視線のまま。

 そして、持っていた私の手首を引っ張った。

 とすん、と背中がタマキさんの胸にぶつかる。

 片腕を後ろに引かれたまま、タマキさんの左腕が身体に巻きつく。

「泣いてる女の体は鉄みたいだ。熱くて気持ちいい。
……もっと泣けよ」

 な、何言ってんの、この人。ふざけんな。
 自分勝手にも程がある。

 頭の中、募る罵倒の勢いは失せ、耳に感じるタマキさんの吐息に背筋がぞくぞくしっぱなし。それが悔しくて、涙が止まらない。

「真っ赤に焼けた鉄を叩くとよ、痛い痛いって悲鳴を上げて泣くんだぜ。
泣いてる時が一番熱くて可愛い。
けどよ、いくらこっちが恋焦がれても触らしてくんねえんだ。
ひでぇと思わねえ?」

 思わない!!

「そんな一方的な気持ちなんて、誰だっていらない!!」

 私は、肘を後ろに勢い良く突き出してタマキさんの体にぶつけた。

「んぐっ」

 身体に巻きついた腕が緩んだ隙に畳を這って抜け出した。

 明日!!
 明日、朝一番で出て行ってやる!!

 いくらかっこよくたって、こんな男、御免だ!!
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