無い物ねだり
 一時間目でいまだ眠気が覚めない多くのクラスメイトは、室内の暑さも手伝ってかなりダラけていた。ヤル気はちっとも感じられない。
 そんな中、私のいる班はピリピリした緊張感が張りつめていた。新山は私を、私は新山をニラみつけ、お互いの出方を見ている。他の班員はいつ私達がぶつかり合うか、固唾を飲んで様子をうかがっていた。ちゃんと見ていないと、ひどいとばっちりを喰うからだ。(みんな、迷惑かけてゴメンね。でも私、コイツだけには絶対負けたくない。だから、引けないの!)
心の中で強く思った。
 すると突然新山は、『心の叫びが聞こえました』と言わんばかりに、バカにしたような目で私を見た。胸の前で腕を組めば、片方の口の端を上げ皮肉るように笑った。
 いよいよガチンコ勝負開始だ。
「今日も朝から仏頂面かよ。気分悪ぃー」
「朝からヘラヘラしているよりいいでしょ」
「なンだと、コラ。俺は場を和ませようとしているんだ。エラいじゃねーか!」
「一人で盛り上がっているようにしか見えないけど」
「お前みたいに笑わないでいたら、朝からテンション激低で、一日中つまんねぇだろ。いや、人生全部つまんねぇ!」
「バカ騒ぎするばかりが人生じゃないわ。見ている人は、私の頑張りをちゃんと見ているの。あなたに理解してもらわなくったって、ぜんぜんかまわない」
「相変わらず可愛くねぇ女だな。マジ、ムカツク!」
「ムカツクのはこっちよ!…って言うか。アナタ、すぐキレるのね。子供だわ」
「もう一回言ってみろ。グーで殴るぞ!」
新山はドスの利いた低い声で言った。まるで不良少年だ。威圧的な態度に同じ班の人だけじゃなく、クラス中の生徒の顔が引きつった。私もドキッとした。
(こんなに怖い一面があるのに多くの生徒に人気があるなんて…いや、怖くて反論できないだけかな?)
もちろん私は引き下がらない。彼を黙ってニラみ返した。彼もひるんだりせず、キッチリとニラみ返してきた。
 教室中の空気がどんどん張りつめる。交わす視線の激しさも増す。それでもお互い引き下がらない。二人とも呆れるほど強気だ。






< 10 / 214 >

この作品をシェア

pagetop