無い物ねだり
「アレ?帰ったんじゃなかったの?」
「帰ろうと思って玄関まで来たんだけど、練習するって言っていた涼ちゃん達の言葉が気になってね。やっぱり付き合おうかと思ったの」
「い、いいの?」
「T大附属に比べたらぜんぜんヘタだけど、私、チームの中で背が高い方でしょ?T大附属は背の高い選手が多いから、ゾーンの練習にはもってこいかと思ったんだ」
「ありがとう風亜!すごく助かる!」
「福原が練習に入ってくれたら百人力だよね」
井川が言った。
「ううん、一千人力かも!」
田中が言った。みんな笑顔になった。みんなで力を合わせれば、絶対勝てる気がした。
「ねえ、このまま体育館へ行く?」
「行くよ。一時間しか練習できないんだ。だから急がなくちゃ!」
「そりゃ大変だ!」
ダッシュで行こうとしたその時、突然ポケットに入れた携帯電話がブルブルと震えた。ミーティングのジャマにならないようマナーモードにしてあったので、着信メロディーは鳴らない。そして、いつまでも止まらない。どうやらメールではなく電話がかかってきたらしい。
(もう、時間無いのに!いったい誰よ!)
イライラして携帯電話を取り出し見ると、母からだった。
「もしもし」
不機嫌丸出しで出ると、母はとても陽気な声で出た。無神経な気がし、もっとイライラした。
「もう、何の用?」
『差し入れを持ってきたの。今どこ?』
差し入れと聞き、急に機嫌が直った。ゲンキンだ。
「正面玄関にいるよ。でも、これからすぐ練習する予定で一時間しかないから、食べている暇なんかないよ」
『まあ、そう言わず。アイス買って来たの。アイスだったら五分もあれば食べ終わるじゃない。それくらい休んでもいいんじゃない?』
(アイス?た、食べたい!)
「今、取りに行く!」
『気が利くわねー。部員みんなの分買ってきたから重かったの。助かるわ』












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