無い物ねだり
私は通話を切ると、慌てて外靴に履き替えた。
「涼ちゃん、どっか行くの?」
「母さん、差し入れ持ってきてくれたんだって。取りに行ってくるから、先に体育館へ行ってて」
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。少しでも早く練習出来るよう準備していて」
「わかった。気をつけてね」
渇いた喉と小腹を満たすため、ウキウキし正面玄関を出ると駐車場へ向かった。嬉しくて足取りも軽かった。
 しかし正面玄関を出てすぐ、私と村井の母が大きなビニール袋を持って立っていた。
「涼ちゃん、お疲れ様。これからさらに練習するんだって?」
「はい。T大附属の試合の映像を見たら、なんか体がうずいちゃって」
「そう、がんばるわねー。あ、これ。女子バスケット部のみんなに食べて欲しくて、みんなのお父さんやお母さんがお金を出し合って買ったの。よかったら食べて」
「ありがとうございます!」
「半分くらいは、先に出てきた部員の子にあげちゃったから、袋の中には恩田先生と残りのメンバー分だけ入っているから」
「みんな、すごく喜ぶと思います」
「じゃ、涼。がんばってね。練習終わったら電話ちょうだい。迎えに来るから」
「うん」
私と村井の母を見送ると、私はウキウキして中へ入ろうとした。みんなの喜ぶ顔を容易に想像できたから。
 すると突然、校舎の影から一組のカップルが現れた。それは、最悪のカップルだった。
(ゲッ!新山君と片平さん!)
よりによって、一番会いたくないカップルに、一番大事な時に会ってしまった。
 向こうも私の存在に気づくと、『最悪』と言う顔で見た。それも片平だけ。白いTシャツを着てサッカー部の青い半ズボンを履いた新山は、気まずそうに顔を背けてしまった。
 女の子らしく胸元にレースをタップリあしらった、白くて裾がフワフワ揺れる膝上丈のノースリーブワンピースに、薄いピンク色の半袖カーディガンを羽織っている。そんな彼女は制服を着ている時よりずっと可愛い。般若みたいな顔をしていなければ、パーフェクトだ。
















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