無い物ねだり
「・・・」
「何か言いなさいよ」
「・・・」
「言いなさいってばっ!」
片平はキレたように叫び、眉間にシワを寄せ目を大きく見開くと、真一文字に結んだ口をワナワナ、プルプルと震わせた。明らかに怒っている。私はハッとして視線をそらすと、体育館へ向かおうと校舎の中へ駆け込んだ。少しでも早く離れるために。
 すると、風亜と目があった。私が帰ってくるのを待っていてくれたらしい。私は後ろから迫る怪しげな気配を感じ、アイスの入った袋を風亜に押しつけた。
「みんなで先に食べていて」
「えっ?」
「溶けちゃうと、おいしくないから」
「でも…」
私は風亜の背中を押した。
「早く行って!」
とたん、右腕を強くつかまれた。
「待ちなさいって言ったでしょ!」
振り返れば片平だった。
 それほど新山を見たつもりはなかった。しかし、新山に異常なほど執着する片平には、食い入るように見ていると見えたに違いない。今にも『私の彼氏をジロジロ見ないで!ドスケベ女!』と叫びそうだった。
 私は片平の手を何とか振り解くと、固まったまま見ていた風亜の背中をさらに押し、小さな声で言った。
「お願い、早く行って」
「こんなの見たら、ほっとけないよ」
「すぐ行くから。お願い、言うことを聞いて!」
私は風亜の背中をグッと押した。
「わかった。すぐ来てね」
風亜はとても心配そうな顔をしながらも、ようやく体育館へ行った。
 玄関には私と片平、そして新山だけになった。とたん、片平は叫んだ。
「待てって言ってるでしょ!耳、聞こえないの?」
「やめろよ、片平さん!何を言っても通じない。あんな冷たい女ほっといて帰ろう。俺、腹が減って死にそうだ。早く何か食いたいよ。ファストフードとか行こう」
「あと少し待って。私、どうしても彼女が許せないの。漆原さんったら付き合っているワケでもないのに、新山君をイヤらしい目で見たの。もう二度とやらないって約束してくれるまで行けないわ!」








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