無い物ねだり
「色気のない女子のイヤらしい視線なんて少しもドキッとしねぇよ。無駄なところで体力使わないで、バレエのためにとっとけよ。これからレッスンがあるんだろ」
「無駄じゃないわ、とても重要よ!」
 片平はけっして引き下がろうとしない。是が非でも私に『新山を見て悪かった』と認めさせたいらしい。いや、私が本当に新山の攻撃を無視するか確かめたいのかもしれない。
「ちょっと、漆原さん。待ちなさいっていったでしょ」
(心配ならご無用よ。言いつけは、ちゃーんと守りますから!それより、いくら顔が可愛くても、しつこいと嫌われるよ。へへーんだ!大好きな彼氏の言うこと、聞いた方がいいわよ!)
私は二人のやり取りをお尻でききながら、再び校舎の中へ入ろうとした。
「女子バスケット部って、礼儀を知らないのね!」
「・・・!」
「あなたがそんな風だと、女子バスケット部は、みーんな礼儀知らずに思われるわよ!」
私は今までになく彼女の言葉にカチン!とした。あまりの怒りに片平を張り倒してやりたくなり、握りしめた拳が、全身がブルブルと震えた。
「おい、片平さん。ヤメロって」
「やっている人が礼儀知らずだと、そのスポーツが下品に見えるわ。と言うことは、漆原さんがバスケット部の品位を下げているってことよ。最低ね!」
「そこまで言うことないだろ。そんな事言っている片平さんの方が、ずっと礼儀知らずだよ」
「新山君はだまってて!これは、あの女と私の問題なの!」
「いいかげんにしろっ!」
珍しく新山が怒りをあらわに叫んだ。明るくて人なつっこくて私以外には、みんなに優しいのに。彼の豹変ぶりに、私は驚いて見た。
「だったら無視しなきゃいいのよ。呼んでいるのに失礼じゃない!」
(そりゃ、アンタに関わるとロクな目にあわないからよ!)
私は心の中で絶叫した。







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