無い物ねだり
「そうだね。スキを作って逃げよう。みんなには悪いけど、助けてもらおう。もう二人じゃどうしようもないよ。恩田先生もこんな変な女だとわかったら、私達を頭ごなしに怒らないだろうし」
小さくうなずくと、元来た道を戻ろうとした。
「尻尾を巻いて逃げようとするところを見ると、自分の非を認めたようね」
「・・・!」
「すいませんでした、片平様。私が大変悪うございました。もう二度とあなたの愛しい人にイヤラしい視線を向けないと、命をかけて誓います。…ほら、土下座して言いなさい」
「はっ?」
「何言ってんの片平さん。何で私がそこまでしなきゃいけないわけ?」
「私の方が頭が良いから。頭が良いから、発言に間違いはないでしょ?」
「ありすぎだよ!さっきから言っているけど、涼ちゃんは片平さんのせいで無実の罪をなすりつけられているんだよ。頭が良いって言っているけど、こんな事言われたら、私達よりバカだとしか思えない」
「口を慎みなさい!」
片平は両手の拳をきつく握り、怒りにブルブルと震わせた。少しも自分が悪いと思っていない。
 私は片平をつかみかかろうとしている風亜を止めようと、彼女の肩をつかんだ。
「風亜、もういいよ。たぶんどこま行っても平行線だよ。私も片平さんも負けず嫌いだから、どっちも折れないだろ…」
「いいえ、折れるわ。漆原さんが!」
片平は叫ぶなり、すごい勢いで走り寄ってきた。手を伸ばしたかと思えばガッチリと胸ぐらをつかまれ、右手を振りかぶった。
 『ヤバイ』と思ったとたん、バチン!と音がし、私の左頬は痛烈な痛みを覚えた。
「ちょ…涼ちゃんに何をするのよっ!」
風亜はビックリして片平に飛びつき、引きはがそうとした。しかし、出来ない。私の目の高さまでしか背が無く、胸ぐらをつかんだ色白の腕は叩けば折れそうなほど細いのに、どうしてもできない。またも叩かれ唖然としていた私も正気に戻れば加勢したが、うまくいかない。接着剤でも塗ったかのように、片平の手は私の胸ぐらをきつくつかんで放さなかった。










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