無い物ねだり
 新山は片平の方へ体を戻すと、姿勢を正し頭を下げた。片平は目を大きく見開き、体の横で握った拳をブルブルと震わせた。
「『友達から始めよう』だなんて言ってゴメン。『いつかは付き合えるかも』みたいな言い方をして、ゴメン」
「・・・!」
「俺、君の言うとおり好きな人がいるんだ」
「・・・!」
片平だけでなく、私も風亜も驚いた。寝耳に水な話しだった。
「たしかに片平さんは可愛いし、頭も良い。君と一緒にいるとみんなが俺を見て『チョー、うらやましい!』って言ってくれる。そんな言葉を聞いたら、すっげぇプライドが満足したし、鼻が高かった。ずっとこんなふうに言われたいって思った」
「だったらなんで付き合えないの?」
「努力したけど、俺の心は好きな女を思う気持ちで満タンみたいでさ。どうしても片平さんを受け入れられないんだ。みんなにチヤホヤされる事より、好きな女と一緒にいられる方がいいんだ。その人を見つめていたいんだ」
「・・・」
「…だから、君とは付き合えない。彼氏に、なれない」
新山は頭を下げたまま動こうとしない。片平は新山のつむじを見つめたまま石像のように固まっている。ものすごいショックを受けたに違いない。
 二人は付き合っているものとばかり思っていた私は、心底驚き二人のやり取りを見ていた。それと同時に、新山をどうにかして彼氏にしようとしたものの、思い届かなかった片平の気持ちを考えると悲しくなった。たくさん嫌なことをされたし言われたけど、一度失恋を経験したから『ざまあみろ!』とは思えなかった。
 片平は思いのまま大きな目に涙をにじませると、ボロボロと泣き出した。
「いや…そんなのイヤ…私、新山君の彼女になりたい。付き合いたい!」
「ゴメン。本当に、ゴメン…」
「いや、いや、いやっ!どんな事でもガンバル。だから、そんな事言わないで!」
「・・・」







< 111 / 214 >

この作品をシェア

pagetop