無い物ねだり
「ダメダメ!ほら、足つっぱんないで。前に進めないでしょ!」
「進まなくったっていいの、進まなくったっていいの!新山君と一緒にいたいのっ!また新山君に告白したいのっ!今度こそ『付き合ってもいいよ』って言ってもらうのっ!」
「まだ言ってるの?こりないわねぇ。とにかく、今はダメ。涼ちゃんを治療するのが先だから、ちょっかい出さないで。少しでも早くここから離れるの!」
しかし片平を連れて行こうと必死になって引っ張っても、どうしても動かない。足を突っ張り強力なブレーキをかけているのだ。おかげで風亜は大苦戦を強いられた。
「もーっ、やめてよ!マジ、ぜんぜんっ!進まない!」
「きゃははははっ!進むな進むな!漆原涼、壊れちゃえ!」
するとそこに、白い半袖Tシャツに青い半ズボン姿の男子がやってきた。新山の親友である進藤だ。
「うっわー。片平さん、何やってんの?」
「進藤!良いところに来た。福原を手伝ってやってくれ」
「えっ?片平さんをどっかに連れて行くの?」
「そうよ、体育館へ連れて行くの」
「いいけど。どうしたの?」
「ワケは後で話す」
「あらら。新山がいくら待っても帰って来ないと思って探しに来たら、俺、タイムリーな感じ?」
「すっごい!タイムリー。ね、反対側の腕持って」
「ラジャー!」
進藤は額の前で敬礼すると、言われるまま風亜が持っているのと反対側の片平の脇に腕を差し入れ、しっかりと固定した。
「いやっ!何をするのっ!」
「ソーリィ、片平さん。親友が愛しい君を連れていけって言ってるんだ。男の友情は絶対さ。断れないよ」
「私、何も悪いことしてないわ。放してっ!」
「それはこれから詳しく聞いてみないと何とも言えないな」
「詳しく聞かなくったって、悪いのはそこで気絶している女なのよ。間違いないわ。今まで新山君のそばでさんざん見てきたでしょ」
「そうかなぁ。漆原さんは、そんなに悪い子じゃないと思うよ」
「あなたまで、あの女の肩を持って言うの?マジ、ムカツク!放しなさいっ!」



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