無い物ねだり
第十四章
 片平奈々をバスケット部に引き渡し進藤と合流した新山は、少し興奮した様子で下校した。
「それにしても驚いたなぁ。片平さんがあんな子だったなんて」
「そうか、そうだな。進藤には何も言っていなかったもんな」
「言いづらかった?」
「ああ」
「新山って、なんだかんだ言って優しいもんな。だから、自分を好きでいてくれている女の子のこと、悪く言えないんだろ?」
「優しくねぇよ」
「そう?」
「本当に優しいなら、今まで引っ張んなかった」
「引っ張る?」
「本当は付き合う気なんてなかったのに、希望を持たせ友達でいた。自分が『サイテー』って言われるのがイヤで」
「『サイテー』って言われるの、俺もイヤだな」
「でも、嫌がっていたらダメなんだ。付き合う気がないなら『付き合えない』って言わなきゃ。相手も気持ちに踏ん切りが付かないから」
「うん、つかないね」
新山はうなだれるよう下を向くと、『ハァ』と大きくため息をついた。
「マジ、俺ってサイテー」
「そんな事ないよ、新山は良い奴だよ。いっつもみんなを笑わせてくれるし」
「けど、今回の事で片平さんだけでなく、漆原にも迷惑をかけた。女を二人も泣かすなんて、男としてサイテーだ…」
「そうだっ!」
突然、進藤は叫んだ。遠くにあるグランドの端まで余裕で届きそうな大きさで。
「な、何だよ。ビックリするだろ。急に叫ぶなよ」
「俺、聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「漆原さんのこと、本当に嫌いなの?」
「はっ?…ってか、まだ俺の話終わってないんだけど」
「先に教えてくれよ。ずっと気になってしょうがなかったんだから」
進藤は目をキラキラさせ新山に顔を近づけた。新山は動揺しながらのけぞった。進藤の『漆原さんのこと、本当に嫌いなの?』が、かなり堪えていた。

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