無い物ねだり
「あら、新しい回答方法ね。今度使わせてもらおうかしら」
ふいに、周囲からクスリと笑う声が聞こえた。私は羞恥心を逆なでされた気がし、カチンとした。
「まあ、とにかく。どう言い訳しようと、あなた達二人の間に険悪な空気が流れていたし、刺されそうな鋭い視線の攻防があったのは間違いないわ」
恩田先生は言葉を切ると、教室中を見渡した。
「教室内を見てもあきらかよ。みんなトバッチリをくらって迷惑そうな顔をしているもの」
「・・・」
「いつも言っているけど、あなた達二人がモメていると授業が進まないの。すっごい時間の無駄なの。やめてちょうだい」
私と新山は、互いに押し黙ったままピクリとも動かない。恩田先生の言葉はもっともだし嫌味を言われるのも当然だと思うが、あれだけモメていたのに簡単に『はい、そうですか』と引けない。ここがダメなら場所を変えてもう一戦ブチかましたい気分だった。
「ダンマリ?…それって、どうでもいい。私に一任するって事ね?」
「…どうてもよくありません。私は新山君の卑劣な仕打ちをキッチリやめさせたいんです。中途半端なまま引けません」
「俺だって負けねぇ。とことん戦ってやる!」
「…どうやら私の話を聞いていなかったようね」
恩田先生は怒りを含んだ低い声で言った。私はドキッとした。いや新山もしていた。
「止めてって言ったでしょ。これ以上授業を妨害する気なら、出ていってもらうわよ」
「でも…」
「昼休みに別室もうけるから、そこで腹ン中に貯まった物を全部吐き出しなさい」
「・・・」
「言うこと聞けないなら、二度と私の授業は受けさせない。卒業できないけど、文句も言わせない」
彼女は胸の前で腕を組み、威圧的な視線を投げた。マジだ。マジで怒っている。
 彼女の様子を見ていたら抱いた闘争心は小さくなり、かわりに恐怖心が増した。あまりの威圧感に、これ以上刃向かえない。新山も同じらしく、不服そうな顔をしつつも何も言おうとしなかった。
「わかった?二人とも」



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