無い物ねだり
「えっ?マジでゲロゲロ?ゲロゲロ男はイヤだっ!」
進藤はようやく放した。新山はヨロヨロと歩き数歩離れると、『ハアハア』と大きな呼吸を繰り返した。
「おい、進藤。みんなに俺のことを『ゲロゲロ男』って言うなよ!」
「漆原さんについてどう思っているのかちゃんと話してくれたら『ゲロゲロ男』って言わないよ!」
(あっやしーなぁ…でもまあ、信じるしかないか)
呼吸を整えると、一度大きく息を吐いた。進藤をチラリと見れば、告白を待っている乙女のように目をキラキラ輝かせていた。
「はぁー」
「で、どうなのさ」
「…漆原の事だけど」
「うんうん」
「その、だな…」
「いつまで待たせんだよっ!」
進藤は力一杯、新山の耳を引っ張った。
「イテテテテテテテッ!わかった、離せってっ!」
「次やったら股間蹴るからなっ!」
「わかったよ」
新山は腰を後ろへ引いた。股間を蹴られたらたまらない。痛さのあまり、しばらく歩けないどころか動けなくなるから。
「その、漆原の事は」
「うん」
「嫌い、じゃない」
「じゃ、好きなんだ。ラブなんだ!」
「ラブ?そ、そんなんじゃねぇよ!」
「まぁたー。目がオロオロしているよ」
「してねぇよ!」
「ダメダメ!僕の目はごまかせないよ。ゴッドアイだから」
「なんだそれ?」
「神の目、つまり何でもお見通しってことさ」
「はぁあ?」
「…つって事は、今までイジメてきたのは、好きだけど好きって言えないから、せめて注意を引きたかったって事だね」
「えっ?」
「そうなんだろー?うひゃっ、マジ照れるぅー」
「ええっ?」


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