無い物ねだり
「新山って、何げにピュアなところあんじゃん。チョーかわいいとこあんじゃん!」
進藤は今度、ビシビシと新山の背中を叩いた。彼的に『やるぅー』と言いたい気持ちを態度で表しているのだろう。しかし新山には痛くてたまらない。心も体も。
「痛いってば、ヤメロよっ!」
「チクショー、新山ばっかり青春して。ずるーい!」
「まだ『そうだ』って言ってねぇだろ!」
「よーし、こうなったら、大橋や泉にも言っちゃおう!野球部もそろそろ部活終わっている頃だし」
「な、待てっ!」
新山は走って野球部のところへ行こうとした進藤のTシャツの襟元を後ろからつかみ、必死で引っ張った。進藤は首がしまり、苦しげに『グォッ』と言った。
「待てって言ってるだろ!」
「何だよもう!」
「絶対言うな。いいな」
「えー、ハッピーなネタなのに。何で?」
「どうでもいいだろ。とにかく言うな。誓え!」
「はいはい、誓います。もういい?ほら、何でも話すって言ったじゃないか」
「そりゃ、そうだけど…」
「やったね!」
進藤はピョンとウサギのように小さく飛び上がって新山から離れた。新山は『まいったな』と言わんばかりに『ふぅ』と息を吐いた。
「それにしても、新山が漆原さんをねぇ。ちょっと意外」
「おい、マジで大橋達に言うなよ。ただじゃ、おかねぇからな!」
「おお、怖い!」
新山のニラみから逃れるよう、進藤は上目遣いに顔をそらした。しかしすぐに向き直ると、ニヤリと笑った。
「なっ、何だよ」
「で、漆原さんのどこがいいのさ」
「どこでも良いだろっ!」
「怒るなよ。言うって言っただろ!」
「…だってよ、進藤だって田口の意見に賛成していたじゃねーか。『漆原は雪女みたいに冷たい女』だって。その漆原を好きになる男なんていないって、前に大盛り上がりしていたじゃねーか」



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